観覧注意*素人の創作文掲載中


エンジェル

2015年02月13日 15:08

いろいろな情報をアップデートしていくのでお見逃しなく。RSS フィード でブログのアップデート状況を確認できます。




・序章-参 (過去文-2013作成)



紺色の制服と同色の帽子、マッドな黄色いリュックを背負う背中は小さくて、しばらくの間はこのリュックを背負うのではなく'背負われる'といった感じの姿が暫く続きそうだった。皆似たようなものだけど、心なし他の子たちより体の小柄な小太郎は入学式直前まで私の手を離さず心細げに幾度も抱っこを強請った。でも周りの園児やそのお母さんやお父さん方の視線に改めて私が一児の母親なのだと、妙な使命感と焦りを滲ませた私は、今後の小太郎の対面を思って抱っこを自重する。小太郎にはこれから私や私の身内だけでなく、視野を広げいろんな人に頼って、関わりあうといった経験が必要だ。いつまでも私が支えるばかりではいられない。少なくとも、同年代の友達を作るにはうってつけのこの場では。

「お母さんっ・・・」

でもそんなこと、まだ五歳になったばかりの小太郎が知る由もない。焦れたように語気を詰めた我が子をいつものように甘やかしたくなるのを何とか堪えた。ますます機嫌を悪くする小太郎。私の心内はこれから徐々に伝えていくことにして、入園式が始まる間際、不安を取り除く為に一度だけぎゅっと抱きしめてあげる。不満げな我が子に困った笑みが漏れた。

そのあとすぐに入園式は始まる。落ち着かない様子の子供たちに同調するように保護者席のお母さんたちも口々に'ママ友'との会話に始終花を咲かせ、保育園の体育館を代用した式場に静けさはないもののあ恙無く式は終えた。そして私もその折、ちゃっかりママ友をゲット。小学校にも上がらない子供たちの催し物の場とは何処もこんなものみたいだ。

「小太郎!」

でも勿論、可愛い我が子の晴れ姿はしっかりと目に焼き付けてある。式場内で小太郎の居た場所はステージから、ずらりと10列近い園児の列の後方あたり。苗字順にステージ前から並んでいるらしく、園児の列の真後ろに設置された保護者席からもかろうじて小柄な小太郎の左半身が子供の垣根の中にちょんと伺え、女の子に左右を挟まれ偶にその子たちから声をかけられている様子を見守るのは何ともむず痒かった。

「!」

入園式後、園児と保護者それぞれ別の教室で説明会を終える。

様々な遊具の設置された園内の中庭に小太郎の姿を見つけて声を上げた私に、振り返った小太郎が嬉し気に駆け寄って来た。ジャングルジムの鉄パイプに寄りかかり、どうやら他の子と話していたらしい。相手は見覚えのある二人の女の子。すぐに入園式で小太郎の両隣にいた子たちだと分かった。私は勢いのままに抱き付いてくる小太郎を受け止めて、思わず口もとを変な具合に歪めてしまう。あれ、あれ、もしかしなくても小太郎ったら、早速モテモテ男児だったりする?

「小太郎、お友達が出来たの?」

膝に両手を置いて中腰になった私は自然な笑みを浮かべて小太郎を見下ろした。でも内心は、まるで少女のようにキャーキャーと行った様なテンションで我が子をじっくり観察し始める。子供独特の頬の丸みを持ちながらも、中世的な顔立ちに不可欠な見事な卵形の輪郭。成長過程でもきっと歪みの一つも生じないだろうと思わせる目鼻立ちとその配置。私は美学や芸術的面に深い造詣はないけど、これは世にいう黄金比率なのでは?と思うくらいに整った顔立ち。肌は健康的な色と肌理の細かさ。これはきっと、若さだけでは説明できない類の質感のはずだ。

ふと、この子を初めて目にした時の記憶が蘇る。あの時から何一つ変わらない、健やかで美しい子供。いや、日を得るごとに、明らかに他を抜きん出たその存在感は増すばかり。親の贔屓目だとは言わせない。この子は誰の目に触れても一目置かれる、可愛い可愛い天使のような子。

「・・・・うん、お友達になろうって、言われた」

少し恥ずかしそうに小太郎が私を見上げる視線を逸らす。膝に置いた私の左手の甲を紅葉の葉のような両手でもぞもぞといじって、手を繋ごうと促してきた。心なしか柔らかな頬が色づいている気がする。私の天使は可愛いだけでなくとても純情。

・・・・・・ごめんね、小太郎。こんなに人の目を惹くあなたなのに、お母さんは身長以外、特に人より抜きん出た見た目がないの。・・・他のママさんたちみたいに、髪色でも明るくしようかな!

「よかったね、小太郎。お母さん嬉しい。楽しい遊びがたくさんできるね」

「・・・・」

顔を俯かせて落着きない様子の小太郎からそっと視線を外し、ジャングルジムの近くからこっちを気にする二人の女の子を見る。入園式の際、背中ばかりで顔は見えなかったのだ。かわいらしく髪を結って、ピンクやイチゴと色と言った若々しい色の飾りのついたゴムやリボンを身に着けているような女の子。身長は少しだけ小太郎より高いかもしれない。でもきっとそれは、この年齢の間だけの話。二人とも遠目からでも窺えるくらいのぱっちりした目をしている。戸惑い気味に、又は何故か嬉しそうに私と小太郎を交互に見るその二人は示し合わせたようにお世辞抜きに 可愛らしい。

「・・・お母さん?」

でも当然、私の天使の愛らしさには遠く及ばない。

ハイ。私もちゃんと、親馬鹿と自覚しています。

「ん?」

入園式前までの不機嫌もすっかり治った様子にほっとしながら、小太郎に視線を戻す。

「・・・・」

私に赤い瞳が向けられる。眉が少し隠れる程度の前髪と、形のいい頭の丸みに沿って整えられた癖毛の一つもない、燃えるような赤髪に縁どられた利口そうな顔がどうしてか顰められていた。思った傍からの、我が子の不機嫌に私は面食らう。繋がれた右手を小太郎がぎゅっと握るのが伝わった。

「ん!」

すると何かに焦れたように私と自分の腕を忙しなく揺らしだす小太郎。私はなになにと首を傾げ頭上にクエスチョンマークを出没させる。そんな私に、察せ!と言わんばかりに我が子は唇を厳めしく表情筋で引っ張った。腕の左右の運動が上下にまで及び、振り回される。

するとそこで、入園式前とは違って小太郎から抱っこをせがまれていない事に気付いた。一瞬、この頑なな何かの主張は暗に抱っこしろと言いたいのかと思ったが、様子を見るにそんな感じではない。

「どうし・・・」

口にしかけ、はたと思い至った気がした。園児の制服を着せようとした時からあれ程機嫌が悪かったのに、問題一つ起こさずに寧ろ大人しく入園式を熟し、私と同じで人付き合いはあまり得意な筈ではないのに友達までつくってくれた。小太郎は褒めて伸びる子。けど私は、まだそのことに関して何の言葉も小太郎にあげてない。

「困った子」

もともと口数の多い子じゃない。誰に似たのか'察する'という日本人独特の対話法が顕著にみられる。表現のしようによっては文化を重んじる異色の和性天使。加えて今日の功労もあっては、褒めてもらいたいという一言を頑なに口にしないその姿勢を不用意に注意する気にはなれなかった

「今日の小太郎は、とびきりお利口だったね。夕食は小太郎の好きなもの、なんでもリクエストしていいよ」

頭の中では、お家に帰ったら沢山抱っこしてあげちゃう、と言いかけたがそれでは元も子もないと自重する。でも本当は気づいてる。きっと相当気を配らなきゃ、何れ私は今日改めて固めた厳しい気持ちを軟化させるだろうこと。ちょっとでも気が漫ろになれば、ぽろりと甘やかしの言葉が舌の先から零れ落ちる。

説明会を聞いて尚の事、これからしっかりしなきゃいけないと思ったのに・・・。まさか我が子が、その意思を打ち崩す一番の原因になるなんて、思いもしてなかった。

—————

戻る