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エンジェル‐悪夢

2015年02月13日 15:38

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・序章-九 (過去文-2013作成)




五年前。

小太郎が私のもとに現れたのはお昼を大分過ぎたころだったと思う。

寝室のデスクでレポートの制作を終えて、一息つこうとしたお茶の時間。

キッチンでお湯を沸かしている途中、肌寒さを感じてクローゼットのある寝室に戻った時の事。私は、ベッドに横たわる小さな赤ちゃんを見つけたのだ。

デスクに向かっていた最中は確かに、そこには私以外の誰もいなかった。母も父も、誰もその日は私の家に訪れてはいない。玄関の扉はオートロックで、五階に位置する部屋に住んでいても窓の戸締りを私はしっかりかけている。

物理的に、窓や玄関の施錠を壊さなきゃ部屋に入ることなんてできない。

だからつまり、その赤ちゃん―――小太郎の出現は、殆ど密室で起こったっ出来事だったのだ。

これは、どういう事?

どうして、赤ちゃんが?

私は何かたちの悪い状態で、幻でも見ているのだろうかと思った。

どう考えたって有り得ない事態に感じる不気味さ。けど目の前にあるのは、どう見ても何の害もない、純粋な目をした、柔らかな肌を持ったただの赤ちゃん。

他の誰かが家に潜んでいるのかと怯えながらも、私は私より弱い存在に背を押されるように家の中を隅々まで確認した。万が一、誰かが潜んでいた場合、寝室の赤ちゃんに被害が無いようにいつもは使わない鍵をそこにかけてまで、私は自分ではなく赤ちゃんの身を守る行動を咄嗟にとっていた。

家の中に私以外誰の居た形跡もないと分かった後も、すぐに身支度を整えて部屋を出ると交番に向かった。それだって、判断しきれない異質な事態が起きた場所に、私を――何よりなんの罪も害もない赤ちゃんを、置いては置けない。安全な場所へ連れて行こうと思っての事に他ならなかった。

私はあの時、何の手がかりも変化もない家の現状を見ても赤ちゃんが、小太郎自身が事態を起こしている基だなんて考えもせずにいたのだ。今だって、そう。私は現代で育った、ごく普通の感覚を持ったリアリスト。生まれて間もないような、まだ張って歩く事すら出来ない赤ん坊が人の手を借りずに何かできるなんて思いもしない。事態は裏付けも予測も立てられない不可思議な状況だと分かっていたけど、神隠しがどうとか、空間的次元の作用が何とかなんて事は思考にかすりもしなかった。

「小太郎・・・」

でも今、私はどうしようもなく馬鹿で非現実的な事を考えずにはいられない。

小太郎は何処に行ったの?

もともと小太郎は、何処から来たの?

――――どうやって、どんな経緯や理由があって、魔法のように、あの場所に現れたの?

私はもう、小太郎に会えない?

小太郎の誕生日。それは小太郎が五年前現れた日。

そして恐らくあの日の同時刻に、小太郎は何処かへ消えた。

保育園の先生は何も変わった事態はなかったと言っている。保育園の至る所には職員と子供たちの姿があることは、私の目から見ても明らか。そう簡単に誰に気付かれることもなく園内に居る園児を攫うのは、難しい。

なら、考えられる事態は―――

「小太郎」

私はその現代人には理解しがたいだろう現象を考えながらも、闇雲に外を歩き回る。応える声がないと分かっていても、譫言のようにその名前を何度も呼ばずにはいられなかった。

 

ねえ、小太郎。

今までどうしても、あなたの事で、正面から向き合って考えるのに躊躇うことが、一つだけあったの。

いつも私は、あなたの外見も不思議な色の髪も瞳の事も前向きに捉えてきた。

でもそれは無理をしていたわけじゃない。本当にあなたの燃えるように鮮やかな髪と瞳に、私は魅入られていたから。

けど、けどね。小太郎。

あなたのその色はどうしても――――人体に起こり得る現象とは言えないの。


 小太郎、あなたの虹彩はどうして赤く、そして私とあなた以外の人には黒く映ったのかな。

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