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エンジェル-悪夢

2015年02月13日 15:46

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・序章-壱拾壱 (過去文-2013作成)




その夜。日付が変わって暫くたった時刻に私は一度目を覚ます。

母と別れてまだ数時間しかたっていないのに、妙な心細さに突き動かされたようだった。こういう時、頭ではどんな理屈を並べても所詮まだ私は両親に頼りがちな子供だって思い知らされずにはいられない。

寂しくて寂しくて、どうしようもない。

私はもともと内気な方だけれど、独りが駄目な性格ではなかったはずなのに・・・。

「・・・」

小太郎。と呟きたくなるのを今にも零れ落ちそうになる涙ごと堪え、代わりに仕草だけの短い溜息をついた。

見慣れた寝室は静かな闇を纏うだけで、誰の寝息も聞かせてはくれない。ずるずると、私の胸の中に暗い気持ちを抱かせるだけ。とても自分が情けない。

今、小太郎はどうしているだろう。

安全な場所に居てくれているだろうか?

苦しい目には、あっていないでいてほしい。

―――今すぐにこの腕に欠き抱いて優しく頭を撫でることが出来れば、あの子も私も、どんなに安堵することが出来るのだろう―――

私はそんな夢のような事を一瞬考えて、ベッドから降りて立ち上がった。

いくら臨んだところで現実に今、小太郎の姿は何処にもない。何かこの部屋に変化があるわけでもない。考えるだけ、虚しい。

気を持ち直すためにバスルームに向かって、軽くシャワーを浴び気を引き締めなおす。明日もまた誰もいないこの家の事を思うと瞬く間に気がふさぎ込みそうになったけれど、母との約束を思い出せば何とかそれを堪えることが出来た。

自分の事にいっぱいいっぱいな私じゃ、私の母のような存在を、小太郎にとっての私にするなんて夢のまた夢。母親はいつだって強く、温かでなければ。少なくとも母が私の前で弱音を吐いたことなんて一度もないんだから。

ドライヤーで髪を乾かした後、私は水分を取るためにリビングとはカウンター越しにあるキッチンへ向かおうとした。

廊下の電機はつけないまま、リビングの扉に手をかける。

でもその時、ふと何処からともなく物音が聞こえた気がして私はピタリと動きを止めた。

扉に頼りなくひっかけた指先が硬直する。

<ザザ、ザザ>

足元で僅かに軋む床の音も完全に絶つとしんと静まるはずのこの場所に、まるで古いテレビでよくあるようなモノクロの画面で聞く耳障りな音が微かに聞こえてくる。

私は更に耳を澄ました。緊張で耳が棒のように平坦な音を拾う中、時折聞こえてくるその耳障りな音は鳴りやむ様子がない。

血の気がサアっと、音を立てて引いていく。そんな錯覚を覚えるくらい、私はこの一瞬で蒼褪め、得体の知れない音の正体に恐怖を抱いた。

どうやらそれは今目の前にしている扉越しに聞こえてくるようだった。一体この家に何が起こったというのか。気のせいで済ませてしまいたくて仕方ない。

でも――――

私はぐっと腹部に力を入れ、次の瞬間理性と勇気を奮い立たせた。そして激しい気持ちと共に自分に怒声を浴びせ、意を決して力任せに手にした扉を開く。

もう私は気づいているのだ。

あの子は、私の愛する可愛い天使と再び会うには、きっと―――

「・・・っ!」

―――どんな不可思議な現象だって、有り得ない事象だって、あの子の事なら私は全てを、受け入れていかなければならないんだって。



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