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エンジェル-悪夢

2015年02月13日 16:03

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・序章-壱拾五 (過去文-2013作成)





私は一晩中ベッド横に居座り男の看病をした。擦り切れた意識からはもう、殆ど警戒心なんてものは抜け落ちている。心身ともに疲れ切っているのだ。それでも私は、男に病院で治療を受けてもらうという選択を出来なかった自分の不遜を補うよう甲斐甲斐しくした。

時折父が泊まっていくときに使う部屋着を着せ、汗をかけばそれを拭き取り、男が苦しそうに歯を噛みしめれば躊躇いながら腕や背をさすって落ち着かせようとする。汗を拭いた回数なんて覚えてはいないけど、それだけ男の体は治癒に奔走しているのだと思うと、瀕死な状態に変わりはないと分かっていてもそれがほんの少し私の不安を軽くしてくれた。

そして実際。晴れ渡る天候と共に小鳥が鳴き始めるころには男の様態も大分安定しつつあった。熱はあるものの、容量が重いまま使い続けたコンピュータのように如何にも何らかの不備が生じそうな危うい高熱は収まっている。でも昨晩の熱が、脳に損傷を与えていないかどうかは外面的に分かる訳ではない。

脇腹の大きな傷に、高熱による後遺症。今後男を何処でどうすればいいかも判然としていないし、男が此処に訪れた目的も分からなければそもそも人間であるかどうかも怪しい。

そして何より、私にとって危険な存在だったとしてもどうにかしてこの男から小太郎との関連性の有無を確かめなければならない。

つまり私は今、嘗てなく自身の岐路に関わる重い事柄をいっぺんに抱えてしまっているということ。男がこのまま目を覚まさない可能性だって、十分に考えられるのだ。そしたら状況は一変。私が罪に問われるような事態にならないとも言えない。だからと言って、目を覚ましたらそれはそれで後遺症の件も浮上する。何より男が動ける状態になった後の私の無事が全く保障されていない。

でも、それでも私は、どうしても小太郎の情報を得られる可能性に賭けたいと思っている。

抱えてしまったものは仕方ない。

私が何とかして、出来れば穏便に、少しずつ消化する術を見つけていくしかないのだ。

先の不明瞭さを予期するようにそこまで考えた私の口から酷く呼気の定まらない溜息が漏れた。流石にもう、限界であるらしい。

私は朦朧とする頭ながらも男の様態を念入りに確かめ、暫くは汗を拭いてやらずともすむよう脇や膝の裏と言った熱の溜まりやすい個所まで丁寧に拭き取ってやった。それが済むと、私は無造作に床へごろんと寝転がる。空調の効いた室内でも偶に肌寒さを感じるため、傍に置いておいたタオルケットを頭から被って目を閉じてしまう。

今日が平日であることを失念していた訳ではなかった。

大学とアルバイトと、小太郎の孤児院を行き来する半年間を耐え抜いた私は一晩くらい眠らなくたって授業を熟すくらいの気力も体力も持っている。

でも、やっと乗り切ったこの一夜だけは、そんな私も耐えきれない出来事が一気に起きてしまったというだけの事だった・・・。



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